おいしさづくりの基礎知識
米の食感 ~でんぷんの糊化と老化~
ごはんのおいしさ
昔ながらの日本人の主食である「お米」ですが、炊き立てが一番おいしく感じるのではないでしょうか。 ごはんのおいしさには、好ましい香り、白くてつやのある見た目、適度にやわらかくて弾力のある食感など、様々な要因が絡んできます。(財)日本穀物検定協会が実施する「米の食味試験」でも、官能試験の項目は「外観、香り、味、粘り、硬さ、総合評価」と、多角的な視点から評価が行われています。 ごはんは時間とともに炊き立てのおいしさが失われていきますが、その主な原因は、食感の変化です。時間が経つにつれて、ごはんは硬く、ボソボソしたものになってしまい、おいしさの低減に直接的に関係します。 このような食感の変化は、どのようにして生まれるのでしょうか?
でんぷんの糊化と老化
お米の主成分は、でんぷんです。 でんぷんは直鎖状のアミロースと分岐構造を持つアミロペクチンで構成されます。
また、お米のでんぷんは、生米では「生でんぷん(β-でんぷん)」と呼ばれる状態で、加水加熱(炊飯)することで「糊化でんぷん(α-でんぷん)」に変化します。 ●生でんぷん その名の通り、生の状態のでんぷんで、炊いたり、ゆでたりする前のものです。 でんぷんの構成要素であるアミロースやアミロペクチンが、結晶状に整列して非常に密に並んでいるため、酵素の作用を受けにくく、消化することがとても難しい状態です。 ●糊化でんぷん 生でんぷんに水を加えて加熱すると、密だった構造の間に水が入りこんで緩くなり、ほぐれた状態になります。この変化を糊化(α化)といい、この状態のでんぷんが糊化でんぷんです。 糊化することでお米は水分を含んだやわらかい、弾力ある食感になります。また、酵素の作用を受けやすくなり、消化できるようになります。 糊化でんぷんは、その後放置すると分子間から水が遊離し、再び生でんぷんのように密な構造になるため、結果としてボソボソとした食感になってしまいます。 こうした変化をでんぷんの老化といい、時間経過とともにごはんの食感が悪くなってしまう原因です。
でんぷんの老化防止
でんぷんの老化は、糊化でんぷんを高温のまま乾燥するか、急速に冷凍することにより防止することができます。 これらの方法は、アルファ化米や冷凍ごはんの他、即席麺やその他加工食品にも利用されています。また、でんぷんを多く含む食品では、様々な老化防止方法が研究されていますが、現在利用されている主な方法として下記3つの方法があります。
①糖類の添加 糖類の親水性によって、でんぷん分子内に水が保持されやすくなり、老化が抑制されます。 トレハロースやマルトトリオースなどに、その効果が確認されています。 ②乳化剤の添加 乳化剤がでんぷんを構成する分子と結合したり、複合体を作ることで、でんぷん分子間の結合 形成(=老化)を抑制することができます。 ③酵素の添加 でんぷんを分解する酵素(アミラーゼ)によってでんぷん分子を部分的に分解し、再結晶化を 防ぎ、かつ生成する糖が水を抱えこむことによって、 それぞれ老化を防止しています。
でんぷんの構成要素であるアミロースとアミロペクチンですが、アミロースの老化は早く、アミロペクチンの老化は時間をかけてゆっくり進むとされています。 通常のうるち米よりもアミロース含量の低い「低アミロース米」は、老化しにくく、冷めても硬くなりにくいお米として市販されています。
出典
- 畑江 敬子,『米から飯へ』,農業機械学会誌,69巻2号,4-7(2007)