おいしさづくりの基礎知識
苦味、えぐみの抑制
苦味とえぐみ
苦味
基本五味の中でも苦味に対する感度は特に高いことが知られています。これは、ヒトに害をなす物質に苦味を有するものが多いためです。 また、苦味は慣れることで人によってはおいしさを感じる要因になり、コーヒーやお茶など、おいしさの上で苦味が不可欠な食品も複数存在します。 そんな苦味物質は、大きく無機化合物と有機化合物に分類することができます。
えぐみ
えぐみは基本五味には含まれず、渋味や収斂味と同様の表現として使用される味です。舌面に吸着されるような触覚と苦味を同時に感じるような、複合的な感覚と考えられています。 えぐみの強い山菜や野菜では、出来る限り取り除くために酢水にさらしたり、茹でたりと、下処理を行います。
食品添加物の苦味、えぐみ
食品の保存性を上げたり、機能性をよくしたり、味を調えたりと、食品添加物は今日の食品加工において欠かせないものです。 しかし、食品添加物にはマイナス面もあり、そのひとつが食品添加物特有の苦味やえぐみです。 苦味やえぐみのない同等機能を持つ食品素材で代替できれば理想ですが、それが困難な場合、苦味やえぐみをマスキングする素材(うま味成分、香気成分他)を併用するなど、おいしさづくりの上では工夫が必要となってきます。
課題になりやすい食品添加物例
●例:日持ち向上剤 加工食品製造において、微生物による品質劣化を抑制することは極めて重要です。そのため、グリシンや酢酸ナトリウムなどの日持ち向上剤がよく用いられますが、独特の苦味、えぐみがあり、添加量によってはおいしさを損なう場合があります。
●例:塩化カリウム 近年、健康志向の高まりから低塩、減塩ニーズが増加し、減塩食の商品開発も進められています。減塩食では、食塩(塩化ナトリウム)の摂取を控えるために、代替塩として塩化カリウムがよく用いられます。 塩化カリウムは、塩味とともに苦味やえぐみも伴うため、これらのマスキングは減塩食を開発する上で大きな課題となっています。
食材の苦味、えぐみ
果物や野菜など、苦味やえぐみを感じさせる成分は様々な食材に含まれています。 含有量が少なければ、味に複雑さを与えておいしさに寄与することもありますが、多い場合は不快な味として捉えられます。 苦味やえぐみを取り除くために用いられる調理工程が、灰汁抜きです。板ずりや茹でこぼし、水さらし等、食材や料理に応じて対応します。
苦味やえぐみがある食材例
●例:たけのこ たけのこは収穫から時間が経つにつれ、えぐみが強くなります。えぐみの原因物質は、アミノ酸であるチロシンが酸化したホモゲンチジン酸で、シュウ酸塩もえぐみの強度に寄与するといわれています。 たけのこを茹でる際に米ぬかを加えますが、これは米ぬかに灰汁成分を吸着させ、除去するためです。また、米ぬかを加えることで酸化が抑えられ、たけのこが白く茹であがる効果もあります。
●例:きゅうり きゅうりなどのウリ科の野菜には、苦味物質としてククルビタシン類が含まれます。食用に流通している野菜では、品種改良によりこの物質はほとんど含まれないようになっていますが、栽培環境によっては稀に苦味を強く感じるものが生じてしまいます。 また、きゅうりでは有機酸の一種であるギ酸が灰汁成分として挙げられています。板ずりなどの前処理によりギ酸は除去することができます。
出典
- 伏木 亨 編著,『光琳選書① 食品と味』,光琳
- 古川 秀子 編著、上田 玲子 共著,『続 おいしさを測る 食品開発と官能評価』,幸書房
- 萩原 清和,『食品の苦味成分』,調理科学,13巻1号,21-26(1980)
- 口羽 章子、坂本 裕子,『たけのこ料理と京都』,調理科学,23巻3号,263-266(1990)
- 堀江 秀樹、玉木 有子,『キュウリの渋味要因と調理操作による低減』,日本調理科学会誌,41巻6号,378-382(2008)