おいしさづくりの基礎知識
食品の不快なにおい
食品の不快なにおい
食品の香りはおいしさを決める重要な要素です。 香ばしさやだしの香りなど、おいしさにつながる良い香りもあれば、食べたくない、おいしくないと感じてしまう不快なにおいもあります。 不快なにおいは、大きく2つに分けられます。 ①原料由来:魚の生臭み、脂質酸化臭、食肉の特異臭、大豆たんぱく臭など ②調理過程で発生:含硫化合物のにおい、脂質酸化臭など 調理過程でだしの好ましい香りが減ってしまうこともおいしさの低減に繋がります。 不快なにおいの発生要因はそれぞれ異なるため、その要因に応じた対策が必要です。
原料由来のにおい
魚の生臭み
魚の生臭みの原因物質の一つに、トリメチルアミン(TMA)があります。 この物質は、魚の水揚げ後の時間経過とともに、魚のうま味成分の一つであるトリメチルアミンオキサイドが分解されて生じます。TMAはアルカリ性で揮発性が高いため、これらの性質を利用して消臭対策をとることができます。
魚の泥臭み
養殖魚や淡水魚では、しばしば泥臭みやカビ臭と表現される不快なにおいが感じられます。 においの原因物質に2-メチルイソボルネオ―ルやジオスミンが挙げられ、これらは魚の生育環境下にいる藍藻類や放線菌といった微生物により生成されます。 水質の富栄養化などによる微生物の異常発生により生じやすく、両成分とも臭気を感じる閾値が低いため、課題になりやすいにおいです。 魚の泥臭みに効果的な消臭方法としては、固形分吸着が挙げられます。
脂質酸化臭
脂質の多い肉や魚原料は油焼けしやすく、保管中にも不快なにおいが増加します。 脂質は酸化されると過酸化脂質に変化し、さらに分解されて脂質酸化臭の原因物質であるアルデヒド類やケトン類が生じます。代表的な物質にヘキサナールが挙げられます。
大豆たんぱく臭
畜肉加工品や魚肉練り製品などでも使用される大豆たんぱくですが、原料である大豆は脂質を多くを含む素材です。そのため、脂質の酸化で生成されるヘキサナールは、大豆たんぱくでも課題となるにおいです。 また、大豆たんぱくを含む食品を調理・加工する際、含硫アミノ酸(システインやメチオニン)が加熱されることでスルフィド類などの含硫化合物も生成されます。これも大豆たんぱく臭の一因と考えられています。
調理過程で発生するにおい
含硫化合物のにおい①
卵や肉など、食材の中にはメチオニンのように硫黄を含んだアミノ酸(含硫アミノ酸)を比較的多く含むものがあります。この含硫アミノ酸が加熱されると、含硫化合物を生成して不快なにおいの原因となります。 レトルト食品に感じられる不快なにおい(レトルト臭)がありますが、レトルト食品は高温高圧下で加熱殺菌が行われるため含硫化合物が発生しやすく、これがレトルト臭の原因となります。
含硫化合物のにおい②
含硫化合物のにおいは、大根やキャベツなどのアブラナ科の野菜でも確認されることがあります。 アブラナ科の野菜には、辛味成分であるイソチオシアネート類が含まれます。イソチオシアネート類の中には、野菜を切ったり加熱することで分解され、メチルメルカプタンやジメチルスルフィドといった含硫化合物を生じるものがあります。 漬物や冷凍お好み焼きなど、加工食品にも広く用いられるアブラナ科の野菜ですが、生育環境や季節変動によって辛味やにおいの程度にはバラつきがあり、制御しづらい課題でもあります。
出典
- 高倉 裕,『高付加価値酒類調味料の開発』,食品工業,45巻9号,54-59(2002)
- 土屋 悦輝 他,『藍藻Oscillatoria sp.および河川水中の臭気物質.2-Methylisoborneol, Geosmin, p-Cresol, Indoleおよび3-Methylindoleの確認』,衛生化学,25巻4号,216-220(1979)
- 金 和子 他,『煮大根の香気形成について』,日本家政学会誌,42巻11号,961-966(1991)