おいしさづくりの基礎知識
魚、肉の食感~おいしい食感と維持する方法~
おいしい食感とは
例えば、やわらかい肉と硬い肉、どちらがよりおいしく食べられるかというと、勿論やわらかくて適度な噛みごたえのある肉の方がおいしく食べられるでしょう。 おいしさを連想する言葉である「シズルワード」にも食感を表現する言葉は多くあるように、食品の食感(テクスチャー)はおいしさに影響を及ぼす大きな要素です。 また、日本語は外国語と比べて食感を表す言葉が非常に多いとされており、日本人がおいしさを判断するうえで、食感は特に重視されているポイントと言えます。 このページでは、主菜には欠かせない魚や肉の食感についてご説明します。 日本人の主食である「ごはんの食感」についても下記リンク先でご紹介しています。
魚、肉のたんぱく質
魚や肉は、加熱調理すると肉質が硬くなったり、パサパサの食感になってしまうことがありますが、どうしてこのような変化が生じるのでしょうか? 魚や肉は主に3種のたんぱく質から構成されています。 ①筋原線維たんぱく質、②筋形質たんぱく質、③結合組織(筋基質)たんぱく質、の3つです。 これらはそれぞれ異なった種類のたんぱく質からなり、特徴が異なります。
上表にお示しした通り、肉が硬くなるのは、加熱によって筋原線維たんぱく質とコラーゲンが変質し、収縮してしまうことが原因です。 (ただし、肉の煮込み料理のように、コラーゲンは加熱を続けるとゼラチン化し、強固だった結合組織は弱まって筋繊維がほぐれやすくなります。) さらに、たんぱく質の収縮によって肉に保持されていた水分が分離し、肉汁として流出してしまいます。加熱によるたんぱく質の収縮、離水が進行した結果、食感は硬く、パサパサした肉に仕上がってしまいます。
硬くなるのを防ぐには
どうすれば肉質が硬くなるのを防ぐことができるのでしょうか? 家庭でも馴染みのある方法や加工業務用の現場で使われている方法など、例を4つ挙げてご説明します。
①砂糖による軟化 砂糖はその分子内に多数の反応性に富むヒドロキシ基 (-OH)を持ち、これらが肉中の水分子と入れかわってたんぱく質の極性基と相互作用します。たんぱく質と砂糖が結びつくことで、加熱によるたんぱく質の変性、凝固を遅らせることができると考えられています。 また、砂糖によってコラーゲンと水の結びつきが良くなり、水分が保持されやすくなることも軟化の要因の1つと考えられています。 すき焼きでは、肉に砂糖をかけるとやわらかくなりますが、これは砂糖による軟化効果と考えられています。
②食塩による軟化 食塩は肉の保水性に大きく影響します。 食塩由来の塩素イオン(Cl⁻)が筋原線維内に存在すると、線維内での電気的反発力が増え、筋原線維が膨潤します。その結果、水を多く保持することができ、肉の保水性が増して肉がやわらかくなります。
③pH変化による軟化 肉の保水性はpH5付近で最小を示し、それより酸性側でもアルカリ性側でも大きくなります。 pH5は、筋原線維たんぱく質であるミオシンとアクチンの結合体「アクトミオシン」の等電点に相当します。等電点では正と負の電荷量が等しいため、電荷同士の引きつけあいによってたんぱく質間の距離が近づきます。結果、保持されていた水が締め出される形となり、保水性が下がります。 肉をやわらかくするために重曹を使用したり、マリネ処理を行うのは、pHをアルカリ性や酸性側に変化させて保水性をあげるためです。 以上のことから、肉のやわらかさには、保水性の向上が大きく関与していることがわかります。 保水性の向上は、歩留まりの向上にも繋がるため、食品製造の現場でも重要視されています。
④酵素による軟化 たんぱく質を分解する酵素「プロテアーゼ」によって筋原線維たんぱく質や結合組織のコラーゲンを分解させ、結果、肉をやわらかくすることができます。 家庭でも、まいたけ、しょうが、パパイヤ、パイナップルの絞り汁などに肉を漬けてやわらかくすることがありますが、これらは全てプロテアーゼの働きによるものです。 一時期流行し、調味料として定着した塩こうじも、こうじ由来のプロテアーゼを豊富に含むため、肉の軟化に効果的です。こうじの酵素についてのページも下記リンク先から是非ご覧ください。
出典
- 早川文代,『テクスチャー(食感)を表す多彩な日本語』,豆類時報,52巻,42-46(2008)
- 沖谷 明紘 編,『シリーズ《食品の化学》 肉の科学』,朝倉書店
- 鴻巣 章二 監修、阿部 宏喜、福家 眞也 編,『シリーズ《食品の化学》 魚の科学』,朝倉書店