おいしさづくりの基礎知識
味のしみこみ~味がしみこみやすくなる工夫~
味のしみこみとおいしさ
煮卵やおでんの大根など、しっかりと味のしみこんだ具材が特別おいしく感じるように、具材にどれだけ味がしみこんでいるかはおいしさの指標となります。 味のしみこみとは、呈味物質が具材内部に拡散されることを示します。呈味物質のしみこみやすさには、その物質の大きさ(分子量)、水分子や具材組織との相互関係など様々な要因が絡みます。 味のしみこみを向上するために、清酒や本みりんなどの酒類調味料がよく活用されます。 これら調味料にはアルコールが含まれており、煮物などの調味液中にアルコールが存在すると、糖やうま味成分が具材にしみこみやすくなることが確認されています。
鍋どめ
煮物では、火を止めて冷ましながら具材に味をしみこませる「鍋どめ」の工程をとることがあります。「温度が下がる時に味がしみこむ」といいますが、味のしみこみに関しては温度が高い方が有利です。しかしながら、長時間加熱し続けると、具材の煮崩れがおきてしまいます。 味のしみこみには時間も必要となるため、煮崩れが起きない程度に煮込み、火を止めて冷めるまでの時間を利用して味をしみこませることが、「鍋どめ」の実態と考えられています。
料理のさしすせそ
食材に味をしみこませるためには、味つけの順番も重要です。 「料理のさしすせそ」という言葉を耳にしたことがあるのではないでしょうか。 この「さしすせそ」は、調味料を入れる順番を表しており、さ「砂糖」、し「塩」、す「酢」、せ「しょうゆ」、そ「みそ」を示します。この順に使うことで、味のしみこみだけでなく調味料の風味も活かすことができる、昔ながらの料理をおいしくするコツです。
●さ:「砂糖」 分子量の大きい砂糖は、他の成分よりも材料に浸透するまでの時間がかかるため、最初に入れます。塩を先に入れると、分子量の小さい塩の方が先に浸透するため、砂糖が浸透しにくくなります。
●し:「塩」 塩は、先ほど説明したように砂糖よりも後に入れ、砂糖を浸透させてから加えます。 塩は浸透圧によって材料の水分を奪う働きもあるため、濃度によっては材料が引き締まり、味がしみこみにくくなります。
●す:「酢」 酸味が特徴の酢ですが、主成分である酢酸は揮発性成分です。早めに入れて加熱すると酢酸が揮発して風味を損なうおそれがあるため、酸味を活かしたい料理には少し遅めに入れます。
●せ:「醤油」 しょうゆの香りは加熱すると飛びやすく、風味が損なわれてしまいます。 料理によっては最初の調味液に含ませ、初めに味をつけることもありますが、しょうゆの香りを活かしたい場合は、出来る限り後の方にいれます。
●そ:「味噌」 最後に加えるのはみそです。みそも加熱により香りが飛びやすく、風味が損なわれます。 みそ汁を作るときは、最後火を止めてからみそを溶くと、風味の良いみそ汁に仕上がります。
味をよくしみこませるために清酒や本みりんを使う際は、砂糖よりも早く入れます。アルコールを揮発させるためにも、料理の最初の方に入れることをおすすめします。
出典
- 伏木 亨 編著,『光琳選書① 食品と味』,光琳
- 津田 淑江,『さしすせその科学』,みりん研究会講演要旨集(5周年記念誌),111-116(2002)
- 畑江 敬子、奥本 牧子,『食品の保温温度が食塩の拡散に及ぼす影響』,日本調理科学会誌,45巻2号,133-140(2012)