おいしさづくりの基礎知識
下ごしらえ~下準備とその調理効果~
下ごしらえとは、調理前の下準備として食材を加工することを指します。ここでは、下ごしらえの目的別に加工食品の製造現場で起こりうる課題に対する効果的な解決方法をご紹介します。
臭みを消す
魚の下ごしらえ
魚の脂、ぬめりや血合いには特有の生臭みがあり、品質を下げる一因となります。通常、事前に食塩水で洗い落したり、「霜降り」という方法で食材に熱湯を掛けて生臭みを落とします。この生臭みの原因物質の一つにトリメチルアミンがあります。トリメチルアミンはアルカリ性なので、有機酸を含む清酒に魚を漬けて中和することで、調理後の生臭みを低減できます。
大豆ミートの下ごしらえ
肉のような食感で低糖質・高たんぱくな「大豆ミート(大豆たんぱく質)」が広く利用されていますが、ヘキサナールなどの大豆ミート特有の風味があります。使用前に水洗いや湯煎に掛けて特有の風味を除去したり、香味野菜や香辛料などを事前に混ぜたりすることで特有の風味をマスキングしています。また、調理する前に大豆ミートの戻し水の一部をあらかじめ調味料に置き換えるだけで、調理後の大豆ミート臭を低減させることができます。
卵加工品の下ごしらえ
卵を焼成すると不快臭として硫化水素が生成します。この硫化水素は、卵に含まれるシステインなどの含硫アミノ酸が加熱によって変化して生成します。卵を焼成する前にあらかじめ調味料を配合しておくことで焼成後の不快臭を低減させることができます。
食感を良くする
野菜の下ごしらえ
野菜は繊維の方向に対する切り方で食感や香りの強さが変わります。せん切りしたキャベツや刺身に添える「つま」などは水に漬けると歯切れが良くなります。これは、浸透圧で水が細胞膜を通って内部に侵入して圧力が高まり、ピンと張った状態になるためです。また、ふろふき大根の十文字の隠し包丁は芯まで熱が伝わるように入れるもので、比較的短時間でむらなく全体的にやわらかく煮ることができるので煮崩れの抑制にも繋がります。
豆類の下ごしらえ
大豆に含まれるたんぱく質の「グリシニン」は、食塩水や重曹水に溶けやすい性質を持っています。大豆を煮炊きする前に食塩水や重曹水に浸漬することで、食塩や重曹が豆の中まで染み込んでたんぱく質を溶かして組織をやわらかくします。また、重曹はアルカリ性のため皮や内部の繊維をやわらかく膨潤させる作用もあります。
魚の下ごしらえ
魚は加熱調理により硬くなり食感が悪くなることがあります。加熱調理前に食塩を振ることで、魚表面のたんぱく質が加熱凝固し型崩れを防ぎ、内部のやわらかい部分を保護します。さらに、内部へ染み込んだ食塩はたんぱく質をやわらかくします。また、魚の加熱調理前に清酒や魚を軟化させる調味料に漬け込んでおくことで、加熱調理後の食感を良くすることができます。
肉の下ごしらえ
とんかつに使用する豚肉は、一般的に厚みがあるため硬い場合があります。とんかつを揚げる前に豚肉を叩いて肉の繊維を断ち切り、調理後の焼き縮みを抑制させることで食感をやわらかくします。また、揚げる前にバッター液の中に肉を軟化させる調味料を配合することで、調理後のとんかつをやわらかく仕上げることもできます。
ごはんの下ごしらえ
乾燥の進んだ古米は新米と比較して水分量が少ないため、あらかじめ水かげんを多めにすることで炊飯後のごはんの食感を良くします。また、炊飯後のごはんは時間の経過とともにでんぷんの老化が進み、パサつきが生じ硬くなります。事前に老化を抑制する素材や酵素を含む調味料を入れて炊飯すると、経時的なでんぷんの老化が抑制され、ごはんのパサつきや硬化を抑制することができます。
色見を良くする
じゃがいもやリンゴなどは切り口が空気に触れると酵素の力で酸化され褐変するので、水などに浸漬して酸素を遮断することでこの褐変を抑制します。また、レタスもカットすると切り口が経時的に褐変していきます。これは、カットすることで細胞が壊れ、細胞内のポリフェノールが空気に触れて酸化するために変色します。カット後すぐに調味料に短時間浸漬することでこの褐変を抑制することができます。
アクを除去する
食材により特有のアク(苦味やえぐみなど)があるので、食材にあった方法で調理前にアクを取り除く必要があります。肉由来のアクは脂質やタンパク質など、野菜由来のアクはシュウ酸やポリフェノールなどが知られています。野菜のアクは水溶性のものが多いので、水にさらしたり茹でたりすることで除去することができます。ごぼうやれんこんなどは酢水に漬けてアクを抜きます。繊維の硬いワラビやゼンマイなどは重曹を、大根やたけのこなどは茹でる時に米ぬかを加えてアクを取り除く方法が広く知られています。
出典
- 杉田 浩一,『「こつ」の科学』,株式会社柴田書店
- 杉田 浩一 他,『日本料理のこつ』,株式会社学習研究社
- 杉田 浩一 他,『調理の科学』,医歯薬出版株式会社