おいしさづくりの基礎知識
コクについて
食品のおいしさとコク
食品のおいしさの構成要素のひとつとして「コク」があげられ、コクが弱いと物足りなさを感じる食品やメニューがあります。昔から様々な食品のおいしさを表現するために「コク」という言葉が使われてきましたが、近年ではメニューの品質特徴を表したり商品名にも用いられるようになりました。 一般的に、コクは厚み、広がり、濃厚感、複雑さ、持続性を表す言葉として知られており、味、香り、食感に関する複合的な刺激で形成されるものとされています。 そのため、食品のコクの強さや調味料による付与効果は、官能評価により確認されることが一般的ですが、味の刺激が影響するコクの違いに関しては味覚センサーにより評価する事ができます。
コクを付与する物質
コクを感じさせる食品は、以下の様に幅広く知られています。 ・長時間ねかせたつゆやかえし ・低温貯蔵による熟成を経た牛肉 ・野菜や肉をじっくり煮込んでつくるカレー、シチュー、ブイヨンスープ ・発酵や熟成を経て作られる味噌、チーズ これらの食品では、調理や製造の過程で原料から様々な成分が生み出され、さらにこれら成分が反応することでより複雑な味わいとなりコクを生じさせます。 様々な研究により、コクを強くする物質として、グルタミン酸等のアミノ酸、ペプチド、脂肪、グリコーゲン、アリインなどが見出されています。これらの中には、単独では収斂味や苦味を呈するが閾値未満の少量では、厚みや濃厚感を醸すコクの付与効果がある物質もあります。 また、食品によっては香りやとろみによりコクを感じさせることもあります。
調味料によるコクの付与
簡単にコクを付与するには、前述の物質を食品に加えればよいですが、これらを含む調味料を添加する方法は昔から「隠し味」として知られています。
本みりんによるコクの付与
本みりんには、原料米のたんぱく質や麴自己消化物由来のアミノ酸、ペプチドが含まれ、調理においてコク・旨味の付与に役立っています。また、本みりんの糖は主にグルコースですが、この他にコクがあり複雑な甘みのもとになるオリゴ糖が含まれています。 さらに、加熱調理の際にアミノ酸と糖によるアミノーカルボニル反応から生み出される風味が、食品に厚みや濃厚感を与えます。
醸造調味料によるコクの付与
本みりん以外にも、味噌、魚醤などの醸造調味料にコク付与効果があることが知られています。 醸造調味料では、主に発酵に続く熟成工程中にペプチドが増加し、コク付与に寄与することが知られています。ペプチドの中には、効果の作用機作が知られている低分子のグルタチオンから現在も味覚調節機能の解明が行われている高分子のものまで、幅広くコク付与効果が示唆されています。
だしによるコクの付与
和食において、食品をおいしく仕上げるためにだしは欠かせません。かつおだしに含まれるイノシン酸、こんぶだしに含まれるグルタミン酸及びこれらの相乗効果により旨味が向上しコクに繋がります。これらに加えて、雑味がある煮干しだしを使うと、コクが増して食品がさらにおいしく仕上がり、食品を減塩した際には物足りなさを補うことも可能です。 また、その他の魚介類では、ホタテや牡蠣等の貝類のエキスにもコクを付与する効果があることが知られています。
出典
- 山本隆,『おいしさとコクの科学』,日本調理科学会誌,43巻6号,327-332(2010)
- 西村敏英、黒田素央編,『食品のコクとは何か』,恒星社厚生閣
- 斎藤浩,太田静行編著,『隠し味の科学』,幸書房
- 河辺達也,『酒類調味料の調理効果について』,日本醸造協会誌,第102巻6号,422-431(2007)